爆クラアースダイバーvol.2
「彫刻家のアトリエの中で、ステレオサウンドを聴く」
〜ストラヴィンスキーとか、人の声とか
2019年5月3日(金・祝)、4日(土)
東京都台東区・旧平櫛田中邸
Text:鈴木佳恵 Video:野田昌志
サウンド・アーティストの湯山玲子が送る爆クラ。通常は代官山にある「晴れたら空に豆まいて」という湯山曰く国内でも最高の音響環境が揃ったイベントスペースで開催される。が、今回はいつもとは少し異なる。
銘打って「爆クラアースダイバー」。
本イベントは爆クラアースダイバーの第2回目に当たる。その土地の追憶や匂いなど、五感を張り巡らせながら、更にクラシック音楽を鑑賞し、一体何が各々の内面に何が産まれるかといういう新たな試みである。
第1回目に同様、サウンドシステムには石黒謙を、会場は東京の上野・谷中エリアにある旧平櫛田中(ひらぐしでんちゅう)邸が選ばれた。平櫛田中とは、日本の彫刻家であり写実的な作品を多く残した。また1882年から1979年まで生きた(数え年で108歳)稀有な人物である。
明治、大正、昭和、平成、そして令和を迎える今。改めて、湯山は彫刻家の邸宅で記憶と共に音楽と改めて対峙しようという訳だ。傾斜の強い階段、雨戸・・・・・・。今回メインで使用した部屋は自然光が入るよう窓を大きく取ってあり、彫刻家のアトリエだということを改めて認識させる。
旧平櫛邸のそこかしこを飾ったのは、湯山が世界各地から蒐集したデコラティブな装飾品だ。羽が贅沢にあしらわれたヘッドドレス、リアルファーや仮面などがシュルレアリスム的な要素を醸し出す。
ここで振舞われたのはレモンパイと紅茶だ。
このレモンパイというのにも、湯山の思い出が詰まっている。湯山が幼い頃に住んでいた家の数件先に、平櫛同様、彫刻家が住んでいたという。そこで出されたのが甘い、甘いレモンパイと紅茶だった。今でこそ甘さ控えめが主流のスイーツだが、戦後の菓子はこれでもか、というほど砂糖を使った。それが贅沢だったのだ。
当時の湯山が味わったレモンパイを再現してくれたのがパティシエールの堀田朗子先生だ。
肝心の音響は昭和が誇るクラシック愛好家垂涎ものの名器が揃った。
スピーカーは、リボンツィーター、ベリリウムスコーカーなど昭和の最新を誇る「PIONEER S933」(1979年発表)
アナログプレイヤーは「PIONEER PL50」(1979年発表)
プリアンプには優秀なフォノイコライザーを持った「DENON PRA2000」(1978年発表)を。
パワーアンプにはMOS-FETを世界初搭載した最高峰の名機を選んだ。(1977年発表)
高く取られた天井は音を優しく包み込み、音を飽和していく。レコードに針が落ちる瞬間の緊張感と幸福。圧倒的な密度を持つ没入体験がそこには在った。