人気のクラシック、トーク&リスニングイベント「爆クラ」が、ついにコンピレーションアルバム化。第1弾はクラブカルチャーとクラシック音楽のあまりにも深く太いシンクロを浮き彫りにする刺激的なラインナップ。「バーバーのアダージョは、泣きのハウスど真ん中」「ブルックナーとヒット曲『ワンモアタイム』の近似値構造」などなど。主宰の湯山玲子が、楽友・鈴木淳史と語りつくした30000字の超ロング対談ブックレット&100分超の2枚組CD。音とTEXTで味わう、脳髄をかき回されるような身も蓋もない知識と情と欲望の百科全書。
ブルックナー、レスピーギ、ショスタコーヴィチ、ヒナステラ、ケージ、黛敏郎……って誰? と、思ったアナタに聴いてほしい! 100分の音浴体験&30000字超のブックレット! 音とTEXTで味わうクラシック新型百科全書 なのです!!
<収録曲>
[Disc1]
1:不気味部分の「耐える」ミックス ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ハ短調作品65 〜第3楽章 Allegro non troppo エリアフ・インバル(指揮) ウィーン交響楽団
2:マルチメディア感覚の映像炸裂 レスピーギ:交響詩「ローマの松」〜Ⅳ アッピア街道の松 アンドレア・バッティストーニ(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
3:イビザ島の超弩級サウンドシステムでかけたい レスピーギ:交響詩「ローマの祭」〜Ⅳ 公現祭 アンドレア・バッティストーニ(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
4:泣きのハウスのど真ん中 バーバー:弦楽のためのアダージョ 作品11 イタリア合奏団
5:壁―カフカ的怖さ バルトーク:パントマイム《中国の不思議な役人》 作品19 Sz.73 〜最終部分 若杉弘(指揮) 東京都交響楽団
6:バルトークとは、川久保玲的体質とみつけたり バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽Sz.106 〜第4楽章 Allegro molto エリアフ・インバル(指揮) スイス・ロマンド管弦楽団
7:エヴァンゲリオン的音楽 バルトーク:弦楽四重奏曲第2番 作品17 Sz.67〜第2楽章 Allegro molto capriccioso カルミナ四重奏団
8:ループトランスの快感とグルジェフ、ロバート・フリップ ドビュッシー:「子供の領分」〜1 グラドゥス・アド・パルナッスム博士 ミシェル・ベロフ(ピアノ)
9:地中海の太陽―まどろみ系の最高傑作 ショパン:子守歌 ニ長調 作品57 アンネローゼ・シュミット(ピアノ)
10:ラテンフレーバーバリバリ ミヨー:スカラムーシュ 〜ブラジルの女 (仲田守編) ポール・メイエ(指揮) 佼成ウインドオーケストラ
[Disc2]
1:ドラムンベース的な、疾走と倦怠の合わせ技 ヒナステラ:ギターのためのソナタ 作品47(1976)〜IV: Final: Presto e fogoso 福田進一(ギター)
2:偶然性という意志を超えた音楽 ケージ:プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード〜第1インターリュード 高橋悠治(プリペアド・ピアノ)
3:厳しさの先にある気持ちよさ イサン・ユン:ピリ 〜オーボエのための(1971) ハインツ・ホリガー(オーボエ)
4:ダフトパンク one more timeとの近似値構造 ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調〜第3楽章 Scherzo. Sehr schnell ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮) ドレスデン・シュターツカペレ
5:なかなかイカせてくれません ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調〜第2楽章 Scherzo. Bewegt, lebhaft – Trio. Schnell ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮) チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
6:音響・トランス派の極地 黛敏郎:涅槃交響曲 〜V:カンパノロジーIII 岩城宏之&東京都交響楽団
主宰者から……
爆クラの記念すべき一枚目のコンピレーションアルバムのタイトルは「RAVE CLASSICS-クラブ耳がハマるクラシック」。ある意味、爆クラの出発点を見つめ直したものになりました。というのは、「爆音で聴くクラシック」という爆クラのコンセプトが私の頭の中にピカッとひらめいた現場というのが、まさにクラブのダンスフロア。1999年のニューヨーク、今は無き最強のサウンドシステムを誇るクラブ、トワイロで、巨匠と言われるDJジュニア・ヴァスケスが週末行っていた8時間のロングプレイを体験していたときのことでした。
彼がつくりあげる一期一会の複雑かつ抽象的、地獄巡りあり天国の光あり、の壮大な音像を踊りながら、「この感覚は、クラシックの交響曲とそっくりだ」と思い至ったのです。メロディーの美しさや、コードの響きを愛でるというのも音楽なのですが、クラシック音楽の中にはそれだけでは魅力を語れないある表現のかたまりがある、それが、今ここのDJプレイに全く同じかたちで現れている、という驚き! そして、踊りながらこうも考えました。ロックやポッブスファンよりも、クラバーたちの方がよっぽど、抽象的な音像を追いかけ、堪能するクラシック音楽の良さが理解できるのでは、と。音楽室の壁に飾ってある、バッハやワーグナーと、上半身裸で陶酔して踊りまくるゲイのマッチョが、重なって見えた一瞬でした。
クラブミュージックも様々な種類とDJがいて、楽曲にしろ、音と音を重ねるミックス方法にしろ、多様な魅力があるのですが、それにしても、そのひとつひとつが非常にクラシック音楽と同根のものが多いのです。今回の選曲は、ゲストで初期に来ていただいて、その音を読み取る感覚とセンスに抜群の信頼をおいている鈴木淳史さんと、ディレクターのクラオタキング、服部玲治さんと日本コロムビアの会議室に2日ほど缶詰になって、あーでもない、こーでもない、と曲をぶつけ合った結果です。
思い余って2枚組にしてしまいましたが、条件が許せば、あとプラス3枚はいけたでしょう。ヴァスケスのフロアでまず私が思い描いたワーグナーは入っていませんし、バッハも面白いDJ!!! とも言えるのですが、割愛しました。このあたりは、第2弾で是非。
人類最強の文化遺産であるクラシック音楽に、こんな快楽の持ち方、面白がり方があるとこのコンピアルバムを通じて感じ取っていただければ、こんなに嬉しいことはありません。
湯山玲子
ブックレットプレビュー