今回のテーマは、音楽の基本中の基本である人間の「声」を取り上げます。
クラシック音楽における「声」と言えば、ほとんどの人が思い描くのは、オペラの舞台で大音量で朗々と響き渡る、ソプラノやテノールといった「声楽」のそれだと思います。普段、私たちが耳にする、ポップスの歌声とは明らかに異質なその「歌い方」は、もちろん、クラシック音楽の歴史をひもとくと、その最初には、中世の教会で歌われた「聖歌」を元として、宮廷向けにつくられた豪華絢爛なオペラといった歴史から、クラシック音楽に育まれてきたもの。
合唱、独唱、二重唱などなど、もともと、「神様」のために捧げられていた歌声は、そののち、人間を描くための歌声になり、その後は、両方を行ったり来たり、現代音楽以降では、それが気配だったり、世界観だったりの広がりを見せます。そう、声はひょっとしたら、多次元宇宙にも届く「音波」のひとつかも。(このあたり、萩尾望都の名SF『銀の三角』参照のこと。上記のイラストも)そして、それが凄いのは、私たちひとりひとりの肉体から、発することが出来るという点。
アルヴォ・ペルト
ゲストの大森克己さんは、前回、まさかのルネッサンス音楽の深い教養にてその世界をひもといていただきましたが、今回のテーマは、写真家として、長年人間と人間のいる風景を切り取ってきただけのことはある身体論にも通じる、クラシック声楽論が、展開される予感。
そして、席亭湯山が最近、よく爆クラで語っている「現代の人間の耳には、クラシックの声楽発声ではあまりにも表現できないことが多くなっているのでは」という疑問についてもきっちり考察できる夜になりそうです。
選曲プランといたしましては、冷戦下の東ドイツの合唱団で、異様な純度がヤバい、と噂される、「ヴェルニゲローゲ少年少女合唱団」やエストニアの作曲家、アルヴォ・ペルトを始めとして、
・バッハ BMV78 「イエスよ、汝わが魂を」より、二重唱「われは急ぐ」 ・モーツァルト K620 歌劇「魔笛」より 「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」(“Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen”) ・シューベルトの歌曲いろいろ ・ヴェルニゲローゲ少年少女合唱団 ドイツ民謡集より「おお音楽よ」ほか ・マーラー 交響曲第4番より、第4楽章(ソプラノ独唱) ・ストラビンスキー 「ミサ曲」 ・ヴィラ・ロボス「ブラジル風バッハ第5番」 ・武満徹 「ちいさな部屋で」
なとなど。もっとカルトなものも出て行きそう。
教養としてのクラシック音楽ではなく、電子音楽の響きを経たクラブ耳を持つ人にこそ体験してほしい、この爆音音浴。生演奏がデフォルトだけれど、録音とオーディオという現代のテクノが入ってこその、音と脳と身体とのセッションを堪能して下さい。
ゲスト
大森克己
1963年兵庫県生まれ。1994年、フランスのロックバンド・マノネグラの 中南米ツアーを撮影した《Good Trips, Bad Trips》で第3回写真新世紀優秀賞。以降、国内外での写真展や写真集を通じて作品を発表。2013年東京都写真美術館でのグループ展「路上から世界を変えていく」に参加。2014には恵比寿 MEM での個展「 sounds and things 」、PARIS PHOTO 2014 への出展など精力的に活動を行っている。主な写真集『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)『encounter』(マッチアンドカンパニー)『サナヨラ』(愛育社)『すべては初めて起こる』(マッッチアンドカンパニー)など。来る7月に恵比寿 MEMにて、個展”when the memory leaves you “ – sounds and things vol.2 “ を開催予定。
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